におい
匂いは記憶を結びつける。その記憶はほかの記憶とは少し違う記憶である。とても感覚的な記憶で当時の情景よりも当時の心象のような、そんな記憶を呼び起こす。
春の訪れが近づいてきた。段々春のにおいが鮮明になってきた。なぜか去年のことは思い出せない。思い出されるのは一昨年のこと、私が高校生になった春のことである。
けれどもなぜかこうして思い出される一昨年の記憶がまるで幼少期の記憶のように懐かしく思い出されるのだ。
匂いには不思議な力がある、不思議な記憶がある。
今年は受験生。来年の春には笑って卒業できているといいのだけれど。まずはクラス替え。それからテスト。周りを蹴落として勝ち残っていくしかない。
自分の利益のためにぎりぎりのラインまではやる。一線を越えてはいけない。そこを見極められるように、感情を表に出さないように、うまく1年乗り過ごさなくてはいけない。
春は懐かしくて、さみしくて、温かくて、苦い。
今年もきれいな桜が咲くだろうか。
今年は幸せな春を迎えられるだろうか。
今年はどんな出会いがあるだろうか。
今年は幸せになれるだろうか。